山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 17

Column

ルー・リード/Walk On The Wild Side

ルー・リード/Walk On The Wild Side

高校時代に聴いた一曲が、ソングライティングの可能性を教え、目指す場所へと導いた。NYでの居候生活でも毎日ラジオから流れてきたその曲は、当時の自分を映し出し、そして今も、自身の在り方を投げかける。HEATWAVE山口洋がこれまで出会ったミュージシャン、R&Rの魔法について書き下ろす好評連載。


1979年。僕は高校1年。通うことになった中途半端な進学校は、とんでもなく居心地が悪かった。なぜって、徹底的な学歴至上主義。そのレールから外れて、落ちこぼれることは“人間失格”だと教師に脅される。体罰が全盛で、言うことをきかない僕は彼らの目の敵。暴力教室。田んぼに囲まれたこの“強制収容所”から逃れる手だては音楽しかなかった。デフォルメなし。ほんとうの話。

梅雨の時期、“強制収容所”は数万匹のカエルの鳴き声がうるさくて仕方がない。まとわりつくような湿気とともに、鳴き声がマントラのように頭蓋に響いてくる。そのとき僕はたしかに声を聞いた。まさかの天啓ってやつだ。

「お前はバンドをやれ!」

腑に落ちた。そうだ、バンドだ。ここから逃げ出すんだ。教科書の端っこをちぎって「おまえがベース」、「おまえがドラム」、「おまえ歌え」。そうやって結成したのが、今なお続くHEATWAVE。まさか38年もやるとは思わなかったけれど、これはほんとうの話。

閑話休題。

僕が住んでいた町の駅前に、小さなレコード店があった。浅川マキに似た、少し陰のある女性がいつも独りで店番をしていた。僕はラジオで聞いて気になっていたルー・リードのアルバム『Transformer』を、昼飯を抜いてひねり出したお金で手にいれた。彼女はにっこりと微笑み、僕の目を見てこう云ったのだ。「私はこのレコードが売れる日を夢見ていたの」。これもまたほんとうの話。

そのアルバムに収録されていた「Walk On The Wild Side」にド肝を抜かれる。NYに暮らす5人のフリークスたちが、それぞれの“Wild Side”を歩いていく物語。僕がそれまでに知っていたロック・ミュージックは大声でシャウトするものだった。けれど、ルーは淡々と低い声で語る。世界に馴染めないアウトローたちの数奇な人生を。

僕は授業中に、歌詞を訳そうと試みる。この歌にはきっと何かがある。スラングは辞書には載っていなかったけれど、大意は理解できる。僕は教師に言いたかった。これが学びってもんだろ?、と。

ハリーはフロリダ州マイアミからやってきた
ヒッチハイクでアメリカを横断し
道中 眉毛を抜き すね毛を剃り
彼は彼女になった

ねぇハニー
Walk On The Wild Side

キャンディーはロング・アイランドからやってきた
楽屋で彼女はみんなの愛人だった
だけど正気じゃなかったことなんてない
○○をしゃぶっているときでさえ

彼女はこう云うのさ
Walk On The Wild Side ,,,,,,,,,,,,,,,

ソングライティング。その何という可能性。

たった4分足らずの曲には、短編映画のような可能性があった。カエルの大合唱の中で、僕は行ったことのないNYの街を夢想する。摩天楼、ホームレス、人種の坩堝、地下鉄やビルから吐き出される水蒸気、それぞれの生き方、プライド、自由、敗北、退廃、危険。LIFEは僕のもの、どんな風に生きようが、僕の自由のはずじゃないか。そう気づかせてくれた。さぁ、収容所から本気で逃げ出すぞ。

もう教師の言葉は耳に入らない。一切端折ることなく、授業中に『Transformer』を脳内で再生すると、ちょうど一時限が終わる。そのイメトレはミュージシャンになるには最適な訓練だった。当時はウォークマンさえない。頭の中で、音楽を存分に(音楽なしで)味わうのだ。

ルーの曲はシンプルだ。使われるコードも少ない。同じコードがリフレインされる“サークルソング”と呼ばれる彼の手法を真似て、僕は曲を書きはじめた。何をどう表現しようと、それも僕の自由。誰も僕の妄想を止められない。ソングライターとしての基礎は“収容所”で養われた。ルーのおかげだ。

あれだけ夢想したNYの街を実際に訪れるには、それから10年の月日が必要だった。ビンボー極まりないNYでの居候生活。17ドルで買ったラジオが友人。とあるラジオ局が毎日夕暮れの時間になると「Walk On The Wild Side」をオンエアする。リトマス試験紙のようにNYでの自分の一日があぶりだされる。田んぼに囲まれたあの場所で目指した“Wild Side”を僕は今も歩いているのだろうか? そう自問する。

東京にもそんな歌が必要だと思った。だから僕は「トーキョー・シティー・ヒエラルキー」を書いた。アル・クーパーの「New York City(You’re A Woman)」の転調する技法を借りて、「Walk On The Wild Side」へのオマージュとして。ただし、登場するのはフリークスではなく、市井の人たちだけれど。

ルーにまつわる長いストーリー。彼は僕のLIFEの深いところに入り込んでいるから、書きだしたら、止まらない。彼が居なければ、僕はミュージシャンになれないまま、今もどこかを彷徨っていただろう。僕がグレッチのギターを弾いているのも、彼がヴェルヴェット・アンダーグラウンドで使っていたからだ。まったく何から何まで、永遠の恩義をルー・リードに。

ルーが2013年に亡くなったとき。あとは自分がやるしかないのだと思い知った。生前最後の写真が今もデスクトップにある。握りしめたフィストの向こうから、彼はこう僕に訊くのだ。「お前はWild Sideを歩いているか?」と。

興味をもった方には以下のアルバムをおすすめする。『Transformer』(1972)、『Berlin』(1973)、『The Blue Mask』(1982)、『Legendary Hearts』(1983)、『New Sensations』(1984)、『New York』(1989)。映像作品はNYボトムラインでのライヴ、『A Night With Lou Reed』を。客席にはアンディー・ウォーホルが居る。


Lou Reed – Roma – Antwerpen – 05/1974
Photo gie Knaeps
NO BELGIUM

ルー・リード(Lou Reed):1942年3月2日、NYブルックリン生まれ。本名、ルイス・アレン・リード。1965 年にジョン・ケイルらと共に“ヴェルヴェット・アンダーグラウンド”を結成。 アンディ・ウォーホルに認められ、ニコをゲストボーカルに迎え、1967年、ウォーホルのプロデュースによる『The Velvet Underground and Nico』でデビュー。1970年にバンドを脱退するまで、リーダーとしてすべての楽曲とアルバム制作を主導した。1972年、『Lou Reed(ロックの幻想)』 でソロデビュー。同年リリースした、デヴィッド・ボウイ、ミック・ロンソンがプロデュースしたアルバム『Transformer』が全英アルバムチャート入り、収録曲でもありシングル曲「Walk On The Wild Side(ワイルド・サイドを歩け)」も米英シングルチャートを席巻した。その後も『Berlin』『The Blue Mask』『New York』など、ロック史に残る名盤を数多く発表。同時代にデビューしたデヴィッド・ボウイをはじめ、後のパンクロック、オルタナティブロックに大きな影響を与える。1996年にヴェルヴェット・アンダーグラウンドのメンバーとしてロックの殿堂入り。2011年にリリースしたメタリカとのジョイントアルバム『Lulu』が最後の作品となった。2013年10月に享年71歳にて逝去。2015年にはルー・リード個人としてもロックの殿堂入りを果たした。
Sony Musicオフィシャルサイト
海外オフィシャルサイト(英語)


BOX SET『LOU REED – THE RCA & ARISTA ALBUM COLLECTION』

2016年10月7日発売
完全生産限定盤(EU輸入盤/17CD)8884303803- 2 ¥20,369(税込)
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
1972年から1986年のRCA、アリスタ時代に録音したアルバム16作品をまとめたボックスセット。本人が亡くなる直前まで制作に関わった生前最後のプロジェクト。

『Transformer(トランスフォーマー)』【Blu-spec CD2】

SICP-30090  ¥1,800(税別)
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
1972年発表作。デヴィッド・ボウイとミック・ロンソンの協力を得て制作した2枚目のソロ・アルバム。

DVD『A Night With Lou Reed』

VQBD-10096 ¥3,065(税込)
ワードレコーズ
1983年のNY凱旋ライブ。

著書プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年、福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)
、池畑潤二(drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。2017年5月には14作目にあたるアルバム『CARPE DIEM』をリリース。東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE 2017”は古市コータロー、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らとともに南青山MANDALAで5日間のライブを開催。熊本地震を受けてスタートした「MY LIFE IS MY MESSAGE RADIO」(FMKエフエム熊本 毎月第4日曜日20時~)でDJも担当。現在、全曲リクエストによるソロ・アコースティック・ツアー2017『YOUR SONG』の真っ最中。
オフィシャルサイト

■ライブ情報

山口洋(HEATWAVE)solo acoustic tour 2017『YOUR SONG』
7月15日(土)広島 音楽喫茶 ヲルガン座
7月17日(月・祝)福岡 ROOMS
7月20日(木)名古屋 TOKUZO
7月21日(金)京都 coffee house 拾得
7月23日(日)長野 ネオンホール
7月26日(水)東京 STAR PINE’S CAFE
7月28日(金)仙台 Jazz Me Blues noLa
7月30日(日)千葉 Live House ANGA
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RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO
8月12日(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ〈北海道小樽市銭函5丁目〉
*MLIMMとして仲井戸“CHABO”麗市、宮沢和史とともに出演
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50/50(山口洋と古市コータローのスペシャル・ユニット)
9月26日(火)吉祥寺STAR PINE’S CAFE
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