映画『彼女の人生は間違いじゃない』  vol. 1

Interview

震災から6年後の福島をリアルに映す『彼女の人生は間違いじゃない』瀧内公美x光石研インタビュー

震災から6年後の福島をリアルに映す『彼女の人生は間違いじゃない』瀧内公美x光石研インタビュー

あの大地震・津波・原発事故から今年で6年。
東北で、福島で起きたことは、もう過去のことなのか?
廣木隆一監督の最新作『彼女の人生は間違いじゃない』は、報道の隙間からこぼれ落ちてしまう小さき人々の傷口、感情に光を当て、この国、この時代の矛盾を照射する意欲作だ。
福島で市役所勤めをしながら、週末は高速バスで渋谷に向かい、“デリヘル”をしている主人公・みゆきを演じるのは、オーディションで選ばれた瀧内公美。仮設住宅で彼女と暮らし、パチンコ店に通い詰める父親・修にベテランの光石研。高良健吾や柄本時生ら “廣木組の常連”俳優が脇を固め、フィクションならではの生々しさで多様な人生の深みを描き出す。父娘を演じた瀧内公美と光石研に話を訊いた。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / 森崎純子 


着飾ったり、隠したりすると、全部はぎ取られた

オーディションで金沢みゆき役を射止めたときの心境はどんなものでしたか?

瀧内公美 原作を読んで、この役をやりたい、と思っていたので、決まったときは「やった!」と。でも、これまで映画やTVドラマで経験してきた役と違って、あまりにも説明がない、心が迷う役で……。不安でしたが、挑戦したいと思いました。福島のことを描く映画は“時代の映画”。福島のことが忘れられかけている現在、自分がそういう映画に出られることは、嬉しかった。福島のことだけじゃなく、今表現の自由が削られていくなかで、強いメッセージ性を持つ原作に出会えたとき、どうしてもこの役を演じたいと思いました。

撮影中は福島、渋谷に泊まり込みで、自宅に帰らなかったとか。

瀧内 そのくらい、〈みゆき〉という女性を演じるのが難しかったんです。何回も何回もカメラを回してもらって、役に入ろうとしたんですが、難しいってものじゃなかった。デリヘルをやったこともない。福島で震災を経験したわけでもない。かといって、想像だけでできる役じゃない。今でも、正しかったのか、わからないんです。答えを求め続けて、でも、捕まえることができなくて……。やっているうちに、こうなったら最後まで悩み続けよう、と思いました。言葉の中にある思いは何なのか。ずーっと考え続けよう、と。

廣木監督は役者に厳しいことで有名ですが、いかがでしたか?

瀧内 優しいですよ、すっごく優しかった。みなさんに「厳しいでしょ?」って言われるんですけど、厳しいと思ったことはなかったです。ただ、「ありのままでいいよ」って言われると、とまどいました。着飾ったり、隠したりすると、全部はぎ取られる。それは、自分の中では怖いことでもありました。
「瀧内、そのままでいいのに、どうして芝居しちゃうの?」と言われたり、普通に食事しているときに、「そんなに優しい顔、穏やかな顔ができるのに、どうしてあそこに立つとできないの?」と。
どうしても身構えたり、自分を大きく見せようとしたり、正しさを求めてしまう自分がいるんですが、「そういうの、いらないんだよ」と何度も監督に言われました。それが厳しさなのかと言われたら、私は優しさだと思っています。

精いっぱいの誠意を持って精いっぱいの嘘をつく

光石さんは、みゆきの父親で、妻を亡くし、家業である農業ができなくなってパチンコ店に通い詰める役です。この作品のオファーが来たとき、どんなふうに受け止めましたか?

光石研 僕は常々、震災のことで被災者の方や復興のために何か力になれることがあれば、と思っていました。でも、東京に住んでいると、できることは少ない。だから、この作品のお話が来たときは、すごく嬉しかったですね。何か、役に立てれば、と。

監督からの注文は何かありましたか?

光石 ないです。役についての具体的な指示は何もなかったですね。

撮影とはいえ、仮設住宅での暮らしをどんなふうに感じられたのでしょう?

光石 僕らは役者なので、ポンと仮設住宅に入って撮影して帰るっていう、あまりにも乱暴なことをやっているわけです。だから、衣装を着て、あの場に入ったときには、覚悟を見せなくちゃいけない。精いっぱいの誠意を持って精いっぱいの嘘をつく覚悟で行きました。

食卓に福島の郷土料理「いかにんじん」があるのも印象的でした。

光石 食事のシーンではすごくリアリティのあるものを出してもらいましたね。スタッフがすごくこだわっていて、鍵を置く場所一つとっても、考えられていましたね。“誠意のある嘘”をつくための用意が完璧にされていました。
なんというか…… 本当にもう、東京から車を走らせて、次の朝、撮影のためにあの場に入るというのは、失礼で……。失礼ですよね、まだあそこに住んでいる方がいらっしゃいましたし。だからこそ、そこで、精いっぱいの嘘をつきました。

そこで米を研いだり、おにぎりを握ったりしている、カメラには映らない瀧内さんの手の動きとリズムが “ちゃんと生きている人”の息遣いを伝えていましたね。

瀧内 「居場所」って何なのかって、ずっと考えていました……。ごめんなさい、思い出すと涙が出てくる……。

東京でぬくぬくとリビングで考えていくようなことなんか、鼻クソみたいなもの

原発事故の影響で、震災以降漁に出られない漁師さんや農業ができない生産者の居場所がパチンコ店くらいしかない状況が現実にある。一つ一つの台詞がとても生々しいです。〈修〉が避難指示区域にある自宅に妻の洋服を取りに戻り、漁師さんに船を出してもらって、海に投げるシーンは、胸を突きます。

光石 船を出してくださった漁師さんは、実際に津波で家族をなくされた方でした。撮影当日、「よろしくお願いします」と挨拶に行って世間話していたら、「うちもね、一緒なんですよ。女房と子どもが流されてねぇ」と、笑顔でおっしゃるんですよ、まだ40歳くらいの若いお父さんが。もう、どう答えていいかわからなくて……。
僕なんかが、台本読んで、こうしよう、ああしよう、と考えて臨んだこと以上のものが福島にはあるから、東京でぬくぬくとリビングで考えていくようなことなんか、鼻クソみたいなもので。
だから、誠意ある嘘をつくために、真摯な気持ちであそこに立てば、スタッフや周りがこの映画を深めてくれると思った。実際、パチンコ屋さんのシーンの撮影中、地震が起きたんです。本当に津波が上がってくることもあって、ロケを取りやめて待機した。そういうこともある中、あそこに立っていると、役者ができることなんて小さいですね。力が及ばない。

瀧内 海のシーンですが、前の台本では、〈みゆき〉も一緒に船に乗ることになっていたんです。だから、お父ちゃんだけが船に乗ることになったとき、「ああ、私も一緒に思いを吐き出したかったのに」と正直思った。でも、完成した映画を観て、これはお父ちゃんの、お父ちゃんだけのシーンだと思いました。そして、ボロボロ泣けてきた。映画の中で、いちばん泣いたシーンです。

声にならない叫び、取り返しのつかないことへの深い後悔、哀しみが全編にわたって喉の奥を締めつけます。「向いてない」と断るデリヘル事務所の三浦(高良健吾)に、みゆきが「どうしてもやりたいんです!」と叫ぶシーン。獣のような目が鮮烈に胸を刺しました。どういう思いで演じられたのでしょうか?

瀧内 ……わからないんですよね。すごく複雑で。現在も、わからない。……この作品に関しては、ずっと、これからも考え続けていく作品だと思っています。
福島の映像を観て、「知ってるよ」「わかってるよ」という人がいらっしゃるかもしれない。5年、6年経って、テレビで映像もあまり流れなくなった。自分たちは東京に住んで、いろいろなものに向かっていくなかで、どう演じればいいのか……。どのシーンも、全部、難しかったです。

たとえ、誰に非難されようが、それが間違ったことだったとしても、肯定してくれる映画

観終わったあと、ずーっと心に残るものがある。ああ、面白かった、で終わるのでない、映画らしい映画だと思いました。深く感じ、考えさせ、最後にかすかな希望を宿す。それでも、生きていくことの光。福島だけでなく、世界中で起こっている哀しみに、そっと手を差し伸べる映画だと思いました。

瀧内 人は生きていれば、哀しみにも出会うし、取り返しのつかない間違ったことをしてしまうこともある。でも、この映画は、それが間違ったことだったとしても、肯定してくれる。たとえ、誰に非難されようが、扱いにくい題材であろうが、肯定してくれるものがここにはあって。だから、いろんな人がご覧になったときに、その人が肯定される映画になっているといいなと思います。

光石 福島の5年後、6年後を、本当にリアリティを持って映している。観た人がどういうふうに感じるかわからないんですけど、5年経ってもこうなんだよ、このままなんだよ、という事実が映っている。そういう思いで観てもらえたら、と思っています。

ヘアメイク(瀧内公美)/ 中島愛貴(raftel)
スタイリスト(同上) / 馬場圭介

<取材を終えて>

インタビューの最中、仮設の暮らしについて質問したとき、言葉を詰まらせた瀧内さん。一つ一つの質問への答えを、安易な言葉でくるんでしまわないように慎重に発する姿勢が、この映画に向かう真摯さと重なった。難しい役を悩みながら演じ、「いまも考え続けている」という人としての在り方は、この映画のリアリティそのものだった。

役者歴40年近い光石さんは、現地に行って肌で感じた余所者の申し訳なさ、役を演じることの矛盾を、精いっぱいの誠意と役者魂で乗り越えようとしたことが、話す姿勢の端々から感じられた。

お二人に共通していたのは、「忘れてはいけない」という強い想いと、「何ができるか」という自分への問いかけ。それは、当事者でない私たちにできる唯一のことだと思った。


瀧内公美

1989年10月21日、富山県出身。2014年、『グレイトフルデッド』で映画初主演を務め、ベテラン俳優の笹野高史との共演で話題を呼ぶ。その後、『日本で一番悪い奴ら』、『闇金ウシジマくん Part3』、『夜、逃げる』、気鋭の監督たちによるオムニバス・ムービー『ブルーハーツが聴こえる』の「人にやさしく」などに出演。またTVドラマでも「美女と男子」、「ブスと野獣」、「ゆるい」、「とげ 小市民 倉永晴之の逆襲」、「ラブホの上野さん」などにも出演しており、映画、舞台、CM、TVなど幅広く活躍している。

光石研

1961年9月26日、福岡県出身。1978年、『博多っ子純情』の主役に抜擢され俳優デビュー。主な出演作に『Helpless』、『ヒミズ』、『アウトレイジビヨンド』、『共喰い』、『映画 深夜食堂』、『シン・ゴジラ』)、『海賊とよばれた男』などあり、その数は160本以上になる。公開待機作に『南瓜とマヨネーズ』、『アウトレイジ最終章』がある。その他、「バイプレイヤーズ~もしも名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」や、「フランケンシュタインの恋」などTVドラマでも活躍している。廣木監督とは、『夏美のホタル』に続くタッグとなる。

映画『彼女の人生は間違いじゃない』

「さよなら歌舞伎町」「ヴァイブレータ」の廣木隆一監督が、出身地の福島に暮らす人びとを描いた処女小説を自身のメガホンにより映画化。仮設住宅で父と2人で暮らすみゆきは市役所に勤務しながら、週末は高速バスで渋谷に向かい、デリヘルのアルバイトをしている。父には東京の英会話教室に通っていると嘘をついている彼女は、月曜になるとまたいつもの市役所勤めの日常へと戻っていく。福島と渋谷、ふたつの都市を行き来する日々の繰り返しから何かを求め続けるみゆき、彼女を取り巻く未来の見えない日々を送る者たちが、もがきながらも光を探し続ける姿が描かれる。

監督・原作:廣木隆一
脚本:加藤正人
出演:
瀧内公美、光石研、高良健吾、柄本時生、篠原篤、蓮佛美沙子
主題歌:meg「時の雨」
提供:ギャンビット、ギャガ
配給:ギャガ
©2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会

原作本

彼女の人生は間違いじゃない

著者:廣木隆一
出版社:河出書房新社

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