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『傷物語』で再検証する メガヒットアニメ〈物語〉シリーズの魅力とは

『傷物語』で再検証する メガヒットアニメ〈物語〉シリーズの魅力とは

幅広い層に支持されるメガヒット作でありながら、その裏に読み解き甲斐のある難解な作品性も内包するアニメ〈物語〉シリーズ。この7月にBD/DVDが出そろう劇場版『傷物語』三部作を軸に、その魅力を改めて検証する。

文 / 山下達也(ジアスワークス)


“怪異”的才能が結集して生み出した
アニメ〈物語〉シリーズ

シリーズ第1弾の『化物語』は、2009年放送の深夜アニメ(全15話)。作家・西尾維新(にしお いしん)の同名小説を、後に『魔法少女まどか☆マギカ』などのヒット作を連発する新房昭之監督のもとアニメーション制作会社シャフトがアニメ化したもので、際立つキャラの魅力や、独創的な演出で多くのファンを虜にした。

同作は、吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを助けたことで自らも吸血鬼となってしまった高校生・阿良々木暦(あららぎ こよみ)が、同じく「怪異※」に行き当たった少女たちの問題を解決していくというオムニバスストーリー。吸血鬼による怪異退治と聞くと血なまぐさい派手なアクションを思い浮かべてしまいそうだが、エピソードのほとんどが、主人公とヒロイン(複数!)のトークが占めているという意外な構成が特徴だ。そのトーク内容も、パロディやメタ視点ギャグを多用するなど、かなり挑戦的。カットとカットの間に差し込まれる「黒齣」や、目を惹くタイポグラフィなど、独特の演出も大いに話題に。主人公・暦を演じた神谷浩史ら、当代人気声優の出演(しかも、他作品とは比べものにならないくらいよく喋る)も人気に拍車をかけた。

※民間伝承や都市伝説などを起源とする妖怪や神(あるいは“そのようなもの”)を本作品では「怪異」と総称。吸血鬼は怪異の王とも称される最強の存在という位置付け。それらを退治する専門家(吸血鬼の場合はヴァンパイア・ハンター)も存在する

この大成功を受け「〈物語〉シリーズ」は、“シリーズ全作品のアニメ化”が決定。2012年に続編『偽物語』『猫物語(黒)』がTVアニメ化されたほか、2013年に『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』、2014年には『花物語』『憑物語』、2015年には『終物語』の原作上巻・中巻がアニメ化。2016年にはアプリ限定で『暦物語』が配信され、この8月には『終物語』の原作下巻のエピソード全7話が、2夜連続2時間TVスペシャルとして放送が決まっている。

原作者・西尾維新も、続編を精力的に執筆。「ファイナルシーズン」完結後も、「オフシーズン(全4巻)」、「モンスターシーズン(7月21日に『忍物語』が発売)」と新作が発表され続けている。

本項執筆時点で22冊にも及ぶ原作小説だが、中でもとりわけ重要な、ファン人気も高い作品が後述する『傷物語』だ。これは、物語の全ての始まりとも言える、吸血鬼キスショットと、主人公・暦の出会いを描いた“はじまり”のエピソード。本シリーズのコアとなる作品の1つとされている。

それだけにアニメも、劇場公開、しかも全三部作となることが決定。〈I鉄血篇〉が2016年1月に、〈II熱血篇〉が同年8月に、〈III冷血篇〉が今年1月に公開された。

元より映像レベルの高さに定評のあった〈物語〉シリーズだが、劇場版『傷物語』は、さらなる超絶ハイクオリティを実現。前置きがかなり長くなったが、本稿では〈III冷血篇〉のBD/DVDが7月12日(水)に発売されることを受けて、改めてこの『傷物語』三部作の魅力を解説したい。

『化物語』では多くを語られなかった
“ぼくたちの失敗”が明らかに

『傷物語』三部作は、シリーズ第1作目『化物語』の前日譚にあたる物語。『化物語』では、既に起きてしまったこととして深く説明されなかった、主人公・暦が、なぜ吸血鬼の力を持つことになったのか、キスショットがどうして少女の姿の忍野忍(おしのしのぶ)となったのかなどが語られる。

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード(CV:坂本真綾)。約500年に渡って生き延びてきた最強の怪異 【『傷物語〈I鉄血篇〉より』

実は多くの西尾維新作品は、“何か大きな出来事が終わったあと=世界が終わったあとの物語”が描かれることが多いのだが(既に主人公は何か大切なものを失っていて、それはもう取り返しがつかない)、『傷物語』では、珍しく、その過去の事件を主題として取り扱っている。

具体的にどんな事件が起こったのか? これについては『化物語』本編で既にはっきりと描写されている。それが第1話・冒頭1分30秒のアバンタイトル部。校門前での委員長・羽川翼との衝撃的な出会い、地下鉄の駅におけるキスショットとの邂逅、そして、そこでの“決断”が原因となって3人のヴァンパイア・ハンターに襲われ、戦い、そして……と、高速なカット割りでハイライトだけを凝縮させた、この1分30秒こそが『傷物語』なのだ。この1分30秒は、三部作合計214分=約3時間半の映像で表現される劇場版『傷物語』の実に濃密な予告編だったとも言えるだろう。

『化物語』アバンタイトルで語られる『傷物語』概要。わずか1分30秒だが、想像力を大きくかき立ててくれる 【TVアニメ『化物語』より】

満を持して映像化された劇場版『傷物語』。全三部構成で在りし日の物語を描ききった (上)【『傷物語〈I鉄血篇〉』より】 (中上)【『傷物語〈II熱血篇〉』より】 (中下)(下)【『傷物語〈III冷血篇〉より』】