佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 1

Column

祖父・永六輔の言葉を語り継ぐ孫~永拓実くん

祖父・永六輔の言葉を語り継ぐ孫~永拓実くん

永さんは常々、「人の死は一度だけではありません」と語っていた。
著書『永六輔の「お話し供養」』(小学館)では、このように書いている。

最初の死は、医学的に死亡診断書を書かれたとき。
でも、死者を覚えている人がいる限り、その人の心の中で生き続けている。
最後の死は、死者を覚えている人が誰もいなくなったとき。
そう僕は思っています。

「言葉の職人」「言葉の達人」と呼ばれた永さんが亡くなったのは、2016年7月7日のことだった。
それから一年が過ぎて、故人を偲んでいくつもの集いが開催された。

ぼくが足を運んだのは、半世紀以上もの親交のあった黒柳徹子をはじめ、さだまさし、ピーコが出演した一周忌イベント「夢であいましょう~永六輔さんのうわさ話~」 である。

浄土真宗だった永さんの法名「釋六輔」が飾られたステージ上では、ラジオで10年以上も共演してきたTBSのアナウンサー、外山恵理の司会進行で、みんなで永さんの思い出を語り合った。

始めから終わりまで笑いがたえないなかで、永さんが作った詩や歌をはさみながら、エンディングでは「上を向いて歩こう」と「見上げてごらん夜の星を」が歌われた。

二十歳の大学生、永拓実くんに再会したのは、終演後のバックステージだった。

拓実くんは初の著書「大遺言」を上梓したところで、ぼくもその本を読んだばかりだった。

だから、「とてもシンプルでわかりやすく、永さんの言葉がストレートに心に届いてきたのがよかった」と、読後に感じた印象をそのまま伝えた。

本文の最初となる『「素人」だったから、いい作詞ができた』は、こんな言葉から始まっている。

“どうして謝るの。知らないのは恥じゃない。知っている振りをするのが恥だよ”

作詞をしたこともない永六輔に詞を書くように勧めたのは、「ビッグフォー」というジャズバンドの天才ピアニストとして、すでに大スターだった中村八大である。

永六輔はジャズ番組の構成をしていたとき、たまたま街なかで出会った中村八大から、作詞をしてくれないかと頼まれた。

どう書いたらいいかわからない素人に、「ぜったい書けるから」「とにかくやってみろ」と、歌本の付録が付いていた雑誌「平凡」を渡して、中村八大は「こういうのじゃないやつをね」と言った。

そうやって出来上がった「黒い花びら」(作・編曲:中村八大 歌:水原弘)が、第1回のレコード大賞を受賞して大ヒットし、次々と作詞の依頼が来るようになったのだ。

拓実くんは、このようにまとめている。

祖父はこんな言葉も遺しています。

“何もないということは、何でもやれるということだ”

何も身に付けていないからこそできることがある。そう考えれば、自分の無知を恥じず、胸を張ることができる気がします。

高校生だった拓実くんは、頻繁に会って食事をしたり一緒に旅をしていた祖父が、世間的に「すごい人」だったらしいことは感じていたという。

しかし何がほんとうにすごいのか、普段の生活からはまるで理解できなかった。

本質的なことについては、何も知らなかったそうだ。

そこで何かを教えてもらいたい、学びたい、そう思ってある時、様々な話題を用意して祖父に質問を重ねてみた。

ところがどんな話題を持ち出しても、関連する豆知識のようなことは話してくれても、あとは「あはははは」と笑って終わりだった。

準備してきたあらゆる質問をかわされて、いつものように他愛のない話しかできなかった。

祖父は結局、僕に何の教えも残さないまま逝ってしまいました。しかし、祖父の“言葉”はいつまでも生きている。輝いている。
著作や作品として公になっているものだけでなく、祖父とともに生きた方々の心の中にも、深く刻まれている。

強い探究心が芽ばえたことで、拓実くんは一念発起し、親交の深かった人を訪問して話を聞いて歩くことにした。

そして祖父と過ごした記憶をたどり、100冊にもおよぶ著書に目を通し、書斎に残されていた手帳やノートを読んだ。

大学を一年休学し、今を生きる人に永さんが残した言葉を伝えるべく、一冊の本にまとめたのが「大遺言」なのである。

時代が移り変わってもまったく色あせない、今を生きる言葉が簡潔にまとめられた「大遺言」を、ぼくもこれからの道標にしたいと思っている。

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『歌えば何かが変わる:歌謡の昭和史』(篠木雅博との共著・徳間書店)。

美輪明宏と「ヨイトマケの唄」 天才たちはいかにして出会ったのか

著者:佐藤剛
出版社:文芸春秋

三島由紀夫、中村八大、寺山修司・・・・・・

時代を彩った多くの才能との邂逅、稀代の表現者となった美輪明宏の歌と音楽に迫る、傑作ノンフィクション!

「自分以外の人によって、己れの人生を克明に調べ上げ語られると、そこには又、異なる人物像が現出する。歴史に残る天才達によって彩色された果報な私の人生絵巻が、愛満載に描かれていて、今更ながら有難さが身に沁みる」――美輪明宏

vol.1
vol.2