映画『彼女の人生は間違いじゃない』  vol. 2

Interview

廣木隆一監督が福島でのロケハンを振り返る。「みんなわかっててあえて言わない現状を映そうと思った」

廣木隆一監督が福島でのロケハンを振り返る。「みんなわかっててあえて言わない現状を映そうと思った」

『800 TWO LAP RUNNERS』(94)で高い評価を得、『ヴァイブレータ』(03)で数々の賞を受賞。『さよなら歌舞伎町』(15)のような作品で深い情愛、人間の業を描く一方で、『ストロボエッジ』(15)、『オオカミ少女と黒王子』(16)、『PとJK』(17)など若手アイドル俳優を主演にすえた青春映画でヒットを飛ばす廣木隆一監督。
福島県郡山市出身、震災直後に見た光景は「気持ちの整理がつかなくて」映画にできず、初めての小説『彼女の人生は間違いじゃない』を書き上げた。
次々と新しい企画が舞い込むなか、あえて脚本家・加藤正人の力を借りて自身の小説の映画化に踏み切った理由は? 福島とデリヘルをつないだ意味は? 監督に語ってもらった。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / 森崎純子


東北や福島だけの問題じゃない。どこにでもありうる生活、問題なんじゃないか

瀧内さんと光石さんにもお話を伺いましたが、お二人とも真摯に、役者として、というより、人間として、映画の中の現実に向き合われたことが伝わってきました。監督は郡山市のご出身ですが、この映画はやはり使命感というか覚悟を持って撮られたのでしょうか?

いえ、覚悟なんてないですよ。震災の後、宮城と福島に行ったときの感覚、受け止めたものを、すぐには映画にはできないなと思った。震災後に東北や福島で自分の観たもの、聞いたものと、報道やドラマでよく伝えられている風景や状況があまりに違っていて。それで、そのときの気持ちを込め、初めて小説を書いたんです。今回の映画は小説とはまた別物としてつくりました。脚本は加藤(正人)さんに書いてもらって、小説とは別の作品が出来上がってくれるといいなと。

あえて映画にした理由は?

映画って、他の映画もそうなんですけど、ある種の距離感が必要だと思っていて。少女マンガを原作にした映画も撮っていますが、距離感という意味では、この映画もそんなに変わらないんです。福島を特別に扱うわけじゃない。福島って何だろう? っていうのは、もう、みんなわかってる。だから、この映画は、福島に限ったことではない日本の現状を、ある種の距離感を持って捉えられればいい、と思って撮りました。東北や福島だけの問題じゃない、どこにでもありうる生活であり、問題なんじゃないの? そう思って。

冒頭、桜並木に車が入ってきて、白い防護服の男たちが降りてくるシーンから、古傷を逆撫でされるような感覚に囚われます。仮設住宅の暮らしが5年も続いていたり、除染の仕事が一日1万円だったり、汚染水処理の仕事を始めた避難者が後ろめたさを感じていたり、一つ一つのシーンや台詞、表情が、報道では伝えにくい現実をリアルに映していてザワザワしました。

原発がどう、という映画じゃなく、人々の暮らしを描いた映画です。被災者の人がパチンコ屋に通って、補償金を使ったりしている。みんなわかっているけど、あえて言わない現状を映そうと思いました。むしろ、ドキュメンタリーでできないことが、フィクションだったらそれができるんじゃないかと。「それ、本当のことじゃないじゃん」って言われたって、元々フィクションだから。

福島で市役所勤めをしている女性が、週末は東京・渋谷でデリヘルをやっているという発想はどこから?

「そんな人いるの?」って聞かれたら、「いや、いないかもしれないし、いるかもしれない」と答えるしかない。そこに暮らしている日常の中であるかもしれないことって、フィクションであろうとノンフィクションであろうと、関係ないじゃないですか? 『さよなら歌舞伎町』を撮る前に、風俗で働いてる女性を取材して、いろいろな女性にいろいろな事情を聞きました。お金が欲しい、とか、整形に使うとか、彼女たちは言っていた。でも、その前に“何か”があったんだろうな、と思った。彼女たちは、そこは話してくれない。でも、もっと前にきっと何かあったんだろう。それと福島をくっつけてみた、という。福島だからデリヘル、じゃなくて、デリヘルやっている子がたまたま福島だった、そこから想像して書いています。

『さよなら歌舞伎町』にも、被災して、父親の水産工場が流されてAV女優を始めた女の子が出てきます。仕事をしているときは、「嫌なことも忘れられる」という台詞もある。

ああ、そうですね。あれはお金を稼ぐ、って意味もありますけどね。

「いいじゃん、生き残ったんだから」って簡単に言わない映画にしようと思った

主演の瀧内さんはいかがでしたか?

彼女は何て言ってました?

難しかった、と。いまも考え続けている、と。「監督は厳しかったんじゃないですか?」と聞かれるけれど、優しかった、とおっしゃっていました。

すごく頑張ってたんじゃないですか。〈みゆき〉って子になりきってほしかったので、いろいろ言いましたけど。「凄く辛いことがいっぱいあった子だから、どう芝居したらいいか、じゃなくて、どういう気持ちがあるのか考えてみて」と。だから今もその気持ちが続いているんじゃないかな。
普段だったら言いませんよ、「違う!」としか言わない。今回は優しかったと思います(笑)。

震災から6年後の福島をリアルに映す『彼女の人生は間違いじゃない』瀧内公美x光石研インタビュー

震災から6年後の福島をリアルに映す『彼女の人生は間違いじゃない』瀧内公美x光石研インタビュー

2017.07.14

光石さんがおっしゃっていましたが、船でお母ちゃんの服を海へ投げるシーンでは、船を出してくださった方が、実際に同じ経験をされていたそうですね。

そうなんです。それを普通に言うんですよね、「うちのお母ちゃんも流されて……」って。できれば、自分も一緒に流されたかった…… という気持ちが滲み出ている。それはなんとも切ない話で。

生き残った人が、哀しみだけでなく、罪悪感みたいなものを抱えている。

「いいじゃん、生き残ったんだから」みたいなことって言えないですよ、簡単に。簡単に言えるような映画には絶対にしないようにしたいと思った。

監督の「正しさ」に依らない視点に惹かれます。風俗産業も「ダメじゃないか」で切らず、それが産業として成り立っている社会、それによって生き延びている人々を見つめる眼差しが優しい。

自分はそんないい人じゃないですけど……(笑)。自分も含めてみんな答えを見つけようとしてるけど、答えなんか一生見つからないって思っていたりもする。なんで犯罪がなくならない? なんで戦争がなくならない? それはたぶん“人間”だから。こんなにいろいろな人間が住んでいたら、いろいろなことが起こるに決まってるし。人間が凄いなんて思えない。そこで迷ったりするのは当たり前。それが“感情”なんだろうと思っています。

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