【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 29

Column

REBECCA 「ラブ イズ Cash」の“Cash”はお金じゃなくて「今、この時」という意味

REBECCA 「ラブ イズ Cash」の“Cash”はお金じゃなくて「今、この時」という意味

1985年4月にリリースされた「ラブ イズ Cash」によって、REBECCAは一躍注目されることになる。その際、ボーカルのNOKKOが身に纏ったのは、日本でも一大ブームを巻き起こしたマドンナに影響されたファッションだ。当時、マドンナに憧れる人達のことをワナビーズ(Wanna Be=彼女になりたい、から来ている)といい、世界中の女子に影響を与えていた。でも、ここで考えてみて欲しい。そんだけ広まってるものを真似ても、「ぜんぜん目立たないのでは?」ということだ。いわゆる“マドンナ旋風”は前年84年のことで、「むしろ街中の女の子達に紛れちゃうのでは?」と考えるのが普通だろう。

ところが85年の日本の状況を見てみると、「DCブランド」のブーム、その申し子であるチェッカーズが大人気で、女子は“オリーブ少女”全盛であった。アイドルの小泉今日子に代表されるような、少年ぽくてコケティッシュな雰囲気、または、ちょっと不思議でふわふわした女の子達が闊歩してた(次にやってきたワンレン・ボディコンのブームとは真逆だった)。いずれにしても共通するのは、どちらも誇るべき“国産品”だったということ。もちろん一部には“ワナビーしていた人達”も居ただろうけど、当時、ロザリオに十字架というカトリック調にパンクを合わせたマドンナ・ファッションに共振したのは、もっとアンダーグラウンドな人達だったろう。

そう思うとメジャーでの活躍を目指していたNOKKOが袖を通したマドンナというモードには、意味があったというか、当時のREBECCAの制作陣には、勇気もあったと思う。カトリック調にパンクでは、目立つどころか“浮く”可能性もあった。でも結果は大正解。このことで世間に対するインパクトを得たNOKKOは、もともと彼女が有していたパフォーマー、ボーカリストとしての能力を、世間一般に伝える手立てを得たのだ。

「ラブ イズ Cash」はマドンナの「マテリアル・ガール」からヒントを得たもの、という言われ方をする。実際、マドンナには“ the boy with the cold hard cash ”という歌詞が出てくる。ただ、私は拝金主義の女なのよ、という打ち出し方で消費社会を肯定してみせたあの曲と、REBECCAの「ラブ イズ Cash」は似て非なる作品である。

改めて歌詞を眺めてみよう。キーワードとして覚えておきたいのは、最初のほうに出てくる“スマートなカードクレジット”という言葉。まさに時代的には渋谷の丸井で人気のDCブランドを列に並んで買いました的な雰囲気を醸し出す表現でもある。で、タイトルにもある“Cash”は、もちろんその対義語だ。

この歌は、彼氏との恋愛事情を歌っている。てことは、“カードクレジット”とはこの先の約束なり、または、体のいいハグラカシだろう(歌詞にもそうした表現が…)。一方の“Cash”は、もっと直情的である。“いますぐ人目なんか気にしないでキスしてぇ〜”的な展開への願望。もちろん主人公の女の子は、“恋の現金払い”のほうを願っている(女性というものは常にそうなのかもしれない、と、男の僕は思う)。

すでにお分かりのように、「ラブ イズ Cash」が「マテリアル・ガ−ル」から影響されたとしても、それは多分、“キャッシュ”という言葉の響きを歌詞に応用してみよう……、くらいのことだったと思われる。でもこの女の子。若さゆえか、ちょっと混乱しているというか、一貫していないところもある。それは、“フランスシネマ”みたいな“シュールな恋”にも憧れていることなのだ。“シュールな恋” には、“恋の現金払い”のような単純明快さはないハズである。

この歌により、NOKKOの存在が、より世間に広まった。それにしても彼女の歌声というのは、特徴的である。通常、歌を聞いていると「助走」部分と「本走」部分が交互に訪れる、というイメージを受けるのが普通なのだが、彼女の場合、歌詞の単語の最初の一文字の音が響いた瞬間から、100パーセント、劇的な感情が届いてきて、それが中だるみしないで、最後まで続いていく。

もちろんこういう書き方だと、均一化した、悪く言えば一本調子な歌なのでは…、みたいに受取る人もいるかもしれないけど、でもそうやっていきなり劇的だったものが、さらにサビなりの声を張る部分では、こちらが当初予測してなかった範疇を超えレッドゾーンがメーター上に現われ、さらにさらに声は振り切れ、聴き手を熱くするわけだ。

その後、もちろん彼女はボーカリストとして、より柔らかな抑揚を駆使するようにもなったが、この時代だからの“切なさの深度”には、得がたいものがある。さて次回は土橋安騎夫のバンド・プロデュース術について考えてみることにしよう。

文 / 小貫信昭

「ラブ イズ Cash (Special Remix)」=『WILD & HONEY』より
「ラブ イズ Cash」=アルバム『GOLDEN☆BEST REBECCA』より

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