Interview

佐野元春&ザ・コヨーテバンド バンド史上最もポップなアルバム。そのコンセプトの全貌を訊く

佐野元春&ザ・コヨーテバンド バンド史上最もポップなアルバム。そのコンセプトの全貌を訊く

佐野元春&ザ・コヨーテバンドのニューアルバム『Maniju』(マニジュ)が完成した。佐野自身が経験してきたさまざまな音楽を、独自に発展させたモダンポップのアイテムを、ふんだんにちりばめた曲が並ぶ。サイケデリック、ニューソウル、フォークロックなどの要素を、メンバーの深沼元昭(g/プレイグス)、小松シゲル(dr/ノーナ・リーヴス)、高桑圭(b/カーリー・ジラフ)、藤田顕(g/プレクトラム)、渡辺シュンスケ(kyd/シュローダー・ヘッズ)と佐野が再構築して、バンド史上最もポップなアルバムになっている。
アルバム・タイトルのマニジュ=摩尼珠は、誰の心の中にもある厄除けの珠のこと。タイトル曲「マニジュ」で♪思いのまま抱きしめていいんだよ♪と歌う佐野元春に、珠玉の新作について聞いてみた。

取材・文 / 平山雄一


今まで披露してない新機軸を聴いてもらいたいねということで『Maniju』に取り組み始めました

©DaisyMusic

『ZOOEY』(2013年)、『BLOOD MOON』(2015年)、そして今回の『Maniju』と、コンスタントに新作アルバムを発表してますね。

はい、嬉しいことです。

その順調さは、ザ・コヨーテバンドとの関係から?

ザ・コヨーテバンドも結成して13年目になって、バンドとして充実の時期です。前作の『BLOOD MOON』が、自分たちとしてもバンドのアイデンティティーをハッキリ打ち出せた、納得のいくアルバムだった。それを終えて、スタジオアルバムとしてバンド4作目ということなので、今まで披露してない新機軸を聴いてもらいたいねということで『Maniju』に取り組み始めました。それが去年の1月ぐらいです。

『Maniju』の曲は、リズムのバリエーションがすごく多いですね。そういう意味でいうと、リズムから作っていったんですか?

僕はプロデューサーですので、バンドメンバーのそれぞれの得意なエリアを知り抜いてますから、彼らのミュージシャンとして素晴らしいところを引き立たせるような編曲をしました。結局、それが『BLOOD MOON』、それから今回の『Maniju』のサウンドに出て来てるんだと僕は思ってます。
かつて自分が作ってきた80年代のTHE HEARTLAND、90年代のThe Hobo King Band、そして00年代以降のザ・コヨーテバンド、どのバンドもプレイアビリティの高い素晴らしいミュージシャンたちが集まってくれましたし、それぞれに表現の得意分野がありますから、僕のプロデュースというのは彼らの得意なところを生かして、それをサウンドとしてまとめる、それが自分の仕事だと思ってます。だから今回のこの『Maniju』で聴いてもらうサウンドも、僕のサウンドというよりかは、ザ・コヨーテバンドそれぞれのメンバーの良いところを集めたサウンドだということになりますね。

去年の1月ぐらいからソングライティングが始まったんですか?

ソングライティングはもう日々やってるんですよ。『Maniju』で披露した曲は、この1年半ぐらいに書き溜めた曲です。

今回はちょっと視点を変えた表現をしてますので、“レトロ・モダン”で行こうと

ジャケットが、すごくきれいですね!

70年代からピンク・フロイドなどのアートワークを手掛けてきたイギリスの“ヒプノシス”の流れを汲むStormStudioというグラフィックデザイン会社があって。そこにヒプノシスのリーダーのピーター・ファーガソン直系のグラフィックデザイナーがいて、前回の『BLOOD MOON』のジャケットから組んでます。今回もやってもらって、やっぱり力のあるグラフィックデザインを出してきますね。

では、前回よりコミュニケーションはスムーズに?

はい。前回もロンドンに直接行って、アルバムの内容も意図もきちんと伝えて、2人でいろいろな四方山話をして、ブレインストーミングして、その中からこのグラフィックが出てきた。今回も、そういうプロセスで出てきました。

その時点でアルバムタイトルは決まっていたんですか?

アルバムタイトル案は2つあって、「このタイトルだったらこうだね」「このタイトルだったらこうだね」って話してた。自分のほうも音がだんだん固まりつつあって「こっちじゃないか?」みたいな絞り込みがあり、というプロセスでした。前回の『BLOOD MOON』は内容的に硬質なメッセージがあったので、当然グラフィックのほうもメッセージ性のあるものにしました。で、今回はちょっと視点を変えた表現をしてますので、“レトロ・モダン”で行こうと、2人で決めました。

『Maniju』のジャケット写真

シアトリカル(演劇的)な構成を、音楽作品に持ち込んだというアイデアです

今回、いちばん驚いたのは、1曲目の「白夜飛行」と10曲目の「夜間飛行」が対になってアルバムを構成していることだった。

あの対比ですね。あれはなかなか説明しにくい(笑)。

同じ曲のバージョン違いが、1枚のアルバムに入っている。

「白夜飛行」については、最初に詞が浮かび、そこに自然とメロディが付き、同時にバンドで鳴らしてまとまっていった曲です。夜をさまよう飛行感のような表現をしてみたかった。飛翔感と言ったらいいかな。で、それが白夜なのか深夜なのかという違いを、「夜間飛行」に持たせました。

それは人間の二面性のようなものですか?

そうですねえ。いろいろな聴き方ができると思います。今、指摘してくれたような面もあるし、あるいは、「若い人」に対しての「経験者」という対比もできると思います。「白夜飛行」は街に暮らしている比較的経験の少ない人たちの飛翔感、飛行感であり、後半の「夜間飛行」は、街に暮らす経験者たちにとっての飛行感、飛翔感っていうような対比もできるかもしれないですね。

「白夜飛行」を作ったあとに「夜間飛行」を作ったんですか?

同時です。ひとつのリリックがあって、そのリリックに時折3曲4曲、違うメロディを付けて遊ぶことがありますから。ただ、大抵は「このメロディ、この演奏がベストだな」というふうに絞り込まれていくんですけれども、この2曲に関しては同じ対象を別のアングルから表現しているという点で、「両方ともありだね」っていう判断があった。

それがさっき言っていた、街に暮らす2種類の経験者についてのアングルですね。

もっといろいろな見方、聴き方はできるけれど、たとえばそういうことです。

そしてその2曲を、アルバムの中でかなり離れた位置に置いたのは?

アルバムを聴き進むにつれて、後半の最も聴いてもらいたい曲の前にリプリーズを出す。

リプリーズというのは、アルバムの中で一度登場した曲を、もう一度別の形で再登場させる手法ですね。

そうです。アルバムの終盤というのはすごく大事です。リプリーズを置いて、「皆さん、私はこのアルバムの最初にこんなことを皆さんにお伝えしましたよね」ということを、もう一度後半のほうで思い返していただき、「僕のテーマはこんなところにあるんですよ」と言いながら、終盤の大団円へと進む。シアトリカル(演劇的)な構成を、音楽作品に持ち込んだというアイデアです。

「白夜飛行」は1曲目だから、相当印象に残りますね。

演劇にたとえれば、「白夜飛行」はオープニングですから、「皆さん、劇場に集まってくれてありがとう」というところで華やかに始まる。ところがアルバムを2曲3曲4曲と聴いていくにつれ、その華やかさが「皆さんが見ているままの華やかさとはちょっと違うんですよ」といったことを、後半の「夜間飛行」で作者のほうから披露し、そして最後の2曲の結論に持って行くというストーリーです。

自分がアルバムを作るときには常にそうなんですけれども、アルバムというものはコンセプチュアルなものなんですね。昔は「コンセプトアルバム」って言って、60年代ではビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』をはじめ、ひとつのコンセプトを持ったアルバムがあった。曲順も大事ですし、そこに収録される曲の内容もそうですし、曲と曲の響き合いも大事。そして、アルバム全体がひとつのストーリーになっているような、作品性の高いアルバム。『BLOOD MOON』もそうですし、前の『ZOOEY』もそうですし、『COYOTE』もそうですけども、特に『COYOTE』以降、僕はアルバムを出す限りはコンセプトアルバムということを意識して創作しています。

コンセプトアルバムの対比としては、ヒットチャートやシングル盤などの1曲1曲が中心になる文化がある。佐野さんは、そちらも好きですよね?

はい、もちろんです。ただやはり、自分が多感な頃に聴いてきたロック音楽作品、『サージェント・ペパーズ~』から始まり、ザ・フーやピンク・フロイドやキンクスなどの良いコンセプトアルバムを聴く機会に恵まれましたから、それらの影響が強い。自分もそういうアルバムを作ってみたいといつしか思っていたんでしょうね。

それがこのところの一連の作品に強く反映されている。

はい。おそらくそれが僕のソングライターとしての、いちばん皆さんに誇れるところじゃないかなと思ってます。楽しんでいただけてるという思いで作ってます。

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