黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 6

Interview

乙女ゲーム生みの親 襟川惠子氏(下)波瀾万丈を越えて革新的VR、その先へ

乙女ゲーム生みの親 襟川惠子氏(下)波瀾万丈を越えて革新的VR、その先へ

乙女ゲームのパイオニア

恵子さんは、今に至る女性向けの「乙女ゲーム」のルーツをお作りになられたわけですけど、それはやはりご自身で今のゲーム産業に足りていない、もしくは無いもの作ろうという発想だったのでしょうか。

襟川恵子 自分も女性ですし世の中の半分は女性ですからね。撃ったり殺したりが多かった男性向けのゲームが主流でしたから。もっと女性が楽しめるゲームがあれば絶対に売れると思ったんです。

当時、パシフィコ横浜で『アンジェリーク』の発表会をやっていたのを拝見しまして、これはダイナミックなことをしているなと思いました。

襟川恵子 キャラクターが好きになったら声優さんにも憧れますよね。だから、その声優さんに歌を歌っていただこうと。ところが、歌手ではない方たちなのでリズムは外れるわ、音程は狂うわ(笑)。大変でしたが、キャラクターのイメージがあってユーザー様は思い入れがありますから、ものすごく売れました。でも、最初はイベントをすることさえ、社員にもすごい反対されたんですよ。

そうでしたよね。

襟川恵子 声優さんひとりにつきCDが1万5千~2万枚売れました。当時は初めてのCDで2万枚売れたら、音楽業界は社長賞をもらえるんですって。しかも、守護聖(注8)は9人いますから9倍です。そのあとも舞台化をしたりとか、あったらいいなと思う、世の中にないものをどんどん作っていきました。でも、声優さんは歌なんか歌わされて最初ビックリしたでしょうね。

注8)『アンジェリーク』に登場する、主人公の女王に仕える9人の男性。

今では当たり前ですからね。そういう意味ではすごくパイオニア的だったと思います。

襟川恵子 今の声優さんは歌もすごく上手で素晴らしいですね。

実は私の姪も声優なんです。「三森すずこ」といいまして、ブシロード所属です。

襟川恵子 ブシロードさんにおられるのですか。それはすごいですね。

ありがとうございます。

周囲の反対を押し切ってスタートしたVRセンスの開発秘話

ところで、今回は新作のアーケードゲーム機VR センス(注9)も「アンジェリーク」のように、恵子さんが直接チームを編成して開発も主導していると伺いました。そのお話も聞かせていただけますか。VRをフィーチャーした筐体は、とても革新的ですよね。随時コンテンツを変えていくようなお考えもあると思うのですが?

注9)コーエーテクモウェーブが手掛けるアミューズメント施設向けのVR筐体とコンテンツ。シートが動いたり、香りが漂ってきたり、温度や湿度が変化したりとさまざまな体感機能が搭載されている。

襟川恵子 通常のVR(バーチャルリアリティ)は皆さんがやってくるでしょうから、仮想現実がもっとリアルに感じられるものにしようと。それで、風や雪の表現ですとか、イスの動き方は他社ではできないものにとか、臨場感を高めて。今までに体験したことのないような感動をお客様に味わっていただきたいということで作ったんです。ただ、初めてやることですから、すべてはこれからですね。

今回のVR センスは「アンジェリーク」の開発のときと同じように恵子さん自身が主導したとのことで、襟川陽一さんとは意見が合わなかった部分があると伺っておりますが、実際のところはどのようにプロジェクトを進めたのでしょうか?

襟川恵子 今回のVR センスの企画は私が考えたんです。もう、一言で言えば「艱難辛苦」ですよ。だって、経営メンバーからは「アーケードゲームとしてのビジネスモデルが確立されてない」とか、「どこも儲かってない」とか…ネガティブな反応しかありませんでした。とくに襟川は「やってもいいけど、コーエーテクモゲームスのラインは埋まっているから社内の開発人員は使うな」って言われましてね…。「なんて冷たいヒト…」って思いましたよ。(笑)

ええ!そんな状況からのスタートだったんですか?

襟川恵子 はい。だから、私は仕方なく、別会社の社員の勤怠を調べて、残業時間の少ないスタッフを集めるところから始めたんです。実際にはヒマだったということではなくて、その時期はたまたま残業時間が少なかったと彼等は言っていますが、半年以上もほとんど残業していないので、コーエーテクモゲームスとは違いました。でも、優秀なメンバーです。

なるほど、たまたま残業が少ない社員さんが候補にあがってしまったんですね。

襟川恵子 幸い、コーエーテクモウェーブにはゲームセンターを運営している社員や、パチンコ・パチスロのノウハウがあり、ソフト開発は3名でスタートしました。VR センスの筐体のデザインの原画は私が移動時間のクルマのなかでメモ帳にえんぴつでササッと描いたんです。

あれですね。原画は6月18日のVR センスの発表会で紹介されていましたね。確かにイメージスケッチの要素が筐体に残っていましたね。

襟川恵子 シルバーグレーに丸がついていますからチャコールグレーをやめたんでしたね。

VR センスで重要視されたポイントを教えていただけますか。

襟川恵子 VR センスは人間の五感に訴える世界初のアーケードゲーム筐体なんです。座席シートは演出に併せて動く「3Dシート」と名付けています。そして嗅覚を刺激する「香り機能」、あと、そこに何かが居る感じを演出する「タッチ機能」、空間の広がりを増幅させる「風機能」、環境やアクション演出に効果的な「温冷機能」、雨や水しぶきなどの演出を感じる「ミスト機能」があります。当然ながらそれらのギミックを活かしたコンテンツを準備しています。

※クリックで大きい画像を表示します。

私は90年代前半にセガにいましたが、当時のセガはアーケードゲーム用のゲーム開発基盤として「MODEL1」や「MODEL2」などを開発しました。VRセンスでは、開発仕様を開示して他社様に活用してもらうことや、コンテンツ協力や提携をして開発をしていく可能性はありますでしょうか?

襟川恵子 もちろんです。技術開示も積極的に行っていきたいと思っていますし、必要に応じて開発もアドバイスもさせていただきます。今は各社が協力してVRを世の中にアピールする貴重な機会だと思いますのでお役に立てればと思います。

VRの未来にはどのような可能性を感じていますか?

襟川恵子 VR センスのコンセプトは、安心、安全で、常時アテンドの人員を付ける必要がありません。筐体サイズはコンパクトに設計がなされています。二つに分割ができますので設置や移動も簡単です。ホテルや百貨店、病院とか、場所を取らないのでショッピングモールなどにも置いていただけると思います。あとは、ご老人たちの施設にも良いと思います。若い頃に行けなかった海外のリゾートにVR上で行ってみるとか、思い出の場所に行くことも可能ですね。

楽しみにしています。

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