Interview

永山絢斗「どのシーンも不思議な力に満ちている」――『海辺の生と死』奄美大島での体験を語る

永山絢斗「どのシーンも不思議な力に満ちている」――『海辺の生と死』奄美大島での体験を語る

あれは完全に戦争への嫉妬の表情ですよね。(永山)

さて、永山さんが演じた〈朔〉は、伝えたいことに対して、言葉が少し足りないですよね。

永山 はい。「〈トエ〉が可愛い」と言いたいだけなのに、「オタマジャクシを飼っていて、そのオタマジャクシがすごく可愛い。それが〈トエ〉に似ている」と言い出したりして……(笑)。ものすごく不器用な人だなと思い、可愛らしくなりました。

言葉が少ないからこそ、表情での演技が印象的でした。

永山 そうですね。言葉ではないところでの演技が多かった気がします。

〈トエ〉役の満島さんの演技も圧巻でした。

永山 はい。特に忘れられないのが、〈トエ〉が〈朔〉の上に乗って、立ち上がらせないシーン。あの場面は監督が「この映画で唯一『死の棘』を匂わせるシーンだから」とおっしゃっていました。撮影中も、俺の目から見た〈トエ〉の表情が狂気に満ちていて、これはすごいシーンになると思っていたんです。〈トエ〉の涙が顔にポタポタと落ちて来て……。あれは完全に戦争への嫉妬の表情ですよね。

愛する人に死なないでほしいというその気持ちは、女性なら多くの人が共感すると思います。

永山 実は、このシーンは台本にはなかったんです。
でも、撮影が進むにつれ、「こういうシーンがあったほうがいい」という話になり、追加されたんです。そのほかにも、天候に左右されることが多く、それに順応しながらシーンを変えたりと、今までにない撮影の仕方で進められていきました。どのシーンもこれまでにないくらい不思議な力に満ちていて、いつもは映画の完成が気になるんですが、この映画は撮影しただけでお腹がいっぱいの状態になりました(笑)。
たまに、ご年配の役者の方から、「自分が出演した作品を観ない」という話を聞くのですが、今までは信じられなかったんです。
でも、現場でやりきることを経験して、そう思うのは理解できました。
とはいえ、もちろん完成作は観ましたけどね(笑)。

すごく素敵な経験だったんですね。撮影中は、子どもたちとのシーンも多かったと思うのですが、一緒に遊んだりしたのでしょうか?

永山 ずっと一緒に遊んでいました。彼らは島の子どもたちなので、すごく純粋で、僕が思う“本当の子ども”なんですよ。
例えるなら……怪獣(笑)。「初めまして」と挨拶をした瞬間から「遊ぼう!」って言われて、次々と俺の体に子どもたちが乗ってきたんです。8人ぐらい乗って来たんじゃないかな。さらに、足を持って転ばせようとしてきたり、とにかくハチャメチャでした(笑)。「自分が無敵だ」と思っている男の子がたくさんいて、面白かったですね。
対する女の子は、すごくおしゃまで、お芝居も初めてのはずなのに、すごく呑み込みが早かったんですよ。

本作に出ていた島の子どもたちは、村の素人の子たちだったんですね!

永山 そうなんです。ごく普通の小学生に出演していただきました。なかでも、〈ケコちゃん〉を演じた女の子は、現在、小学校高学年になっているんです。先日、その子が東京に来たときに、少しお話をしたんですが、「映画はもう二度とやりたくない」って言っていました(笑)。

あはは(笑)。気持ちが変わってくれるといいですね。それでは最後に、この作品を観た人にどんなことを感じてもらいたいか教えてください。

永山 この映画は、人間の面白さ、見苦しさ、そして人間らしさをすごく感じることができると思います。なかなか見ることのできない日本が映っていますし、良くも悪くも、体に染み込んで残る作品になっています。いつか、この続編の『死の棘』でも演じてみたいです。……きっと、かなりしんどいと思いますけどね(笑)。

永山絢斗

1989年生まれ、東京都出身。
2007年、TVシリーズ「おじいさん先生 熱闘篇」(NTV)で俳優デビュー。
翌年、『フレフレ少女』(渡辺謙作 監督)で映画出演を果たす。2010年に『ソフトボーイ』(豊島圭介 監督)で映画初主演を飾り、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。代表作に【ドラマ】NHK連続テレビ小説「おひさま」(11)、「ごめんね青春!」(14/ TBS)、「64(ロクヨン)」(15/NHK)、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」(16)、「コールドケース~真実の扉~」(16/ WOWOW)、「みをつくし料理帖」(17/NHK)、【映画】『悪人』(10/李相日 監督)、『ふがいない僕は空を見た』(12/タナダユキ 監督)、『クローズEXPLODE』(14/豊田利晃 監督)、『藁の楯』(13/三池崇史 監督)、『真田十勇士』(16/堤幸彦 監督)など。現在、主演ドラマ「居酒屋ふじ」(TX)が放送中。
10月6日には、日本とキューバの合作『エルネスト』(阪本順治 監督)が公開予定。

画像ギャラリー

映画『海辺の生と死』

2017年7月29日公開

昭和19年、12月。奄美カゲロウ島。国民学校教員として働く〈大平トエ〉(満島ひかり)は、新しく駐屯してきた海軍特攻艇の隊長〈朔中尉〉(永山絢斗)と出会う。〈朔〉が兵隊の教育用に本を借りたいと言ってきたことから知り合い、島の子どもたちに慕われて、軍歌よりも島唄を歌いたがる軍人らしくない〈朔〉に〈トエ〉は惹かれていく。やがて、〈トエ〉と〈朔〉は逢瀬を重ねるようになるが、時の経過とともに敵襲は激しくなり、沖縄は陥落、広島に新型爆弾が落とされる。そして、ついに〈朔〉が出撃する日がやって来た。母の遺品である喪服を着て、短刀を胸に抱いた〈トエ〉は、家を飛び出し、逢瀬を重ねていたいつもの浜辺へ無我夢中で駆けるのだった……。

【原作】
島尾ミホ『海辺の生と死』(中公文庫刊)、島尾敏雄「島の果て」ほか
【監督・脚本】越川道夫
【出演】
満島ひかり 永山絢斗
井之脇海 秦瀬生良 蘇喜世司 川瀬陽太 津嘉山正種
【音楽】宇波拓
【参考文献】梯久美子『狂うひと―「死の棘」の妻・島尾ミホ―』(新潮社)
【配給】フルモテルモ、スターサンズ

オフィシャルサイトhttp://www.umibenoseitoshi.net/

©2017 島尾ミホ / 島尾敏雄 / 株式会社ユマニテ

『出発は遂に訪れず』

「島の果て」収録『出発は遂に訪れず
島尾敏雄(著)
新潮文庫

【島尾敏雄のその他の作品はこちら】

狂うひと―「死の棘」の妻・島尾ミホ―

狂うひと―「死の棘」の妻・島尾ミホ―
梯久美子(著)
新潮社

< 1 2