佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 2

Column

最果タヒ~新しい日本語の歌が生まれる予感が……

最果タヒ~新しい日本語の歌が生まれる予感が……

その不思議な名前の詩人を知ったのはもう何年前だったのか、確か映画のプロデューサーでもある孫家邦さんから、「新しい才能が誕生した」と教えられたと記憶している。

そして2014年、孫さんが経営するリトルモアという出版社から、最果タヒの第三詩集『死んでしまう系のぼくらに』が上梓された。そのタイトルの文字と響きが、否が応でも気になってしまい、心の何処かに深く刻まれた。

それが第33回現代詩花椿賞に選ばれたという話を聞いたと思ったら、今度は第四詩集の『夜空はいつでも最高密度の青色だ』が昨年の春に出版になった。

またしてもタイトルの素晴らしさに感心していると、孫さんが自らプロデュースして、同名の映画が完成し、今年の5月から公開されている。

そして7月27日には最新詩集『愛の縫い目はここ』が発売になる。

最果タヒが言葉の面白さに気づいたのは、中学生の時に聞いた音楽、BLANKEY JET CITYやはっぴぃえんどだったという。

小説や詩といった文学作品ではなく、日本のロックバンドによる歌詞がきっかけとなって、新しい言葉の使い手が世に出てきたのである。

歌詞のどんなところにおもしろさを感じたのかについて、最果タヒはインタビューで次のように答えている。

文脈が無いところですね。次々に言葉が意外なところに飛んでいくのがカッコよく思えて、「私もそんな日本語が書きたい」と思って、文章を書くようになりました。
普通ならとりとめのない言葉を読んでも「これは何が言いたいんだろう?」と戸惑ってしまう人が多いと思うのですが、歌詞の場合、行間にはメロディがあり、そして言葉は、歌うその人の声によってひとつのものにまとめあげられていて、だからとりとめもなさがあったとしても、自然なものとして受け止めることができるんです。そうやって受け入れられている行間の広さみたいなものが、今まで教科書などで見ていた言葉とは全く違うものに見えて、新鮮でした。

(最果タヒ『夜空はいつでも最高密度の青色だ』–「レンズのような詩が書きたい」に込められた想い。 | P+D MAGAZINEhttps://pdmagazine.jp/works/saihate-tahi/)

最果タヒの詩の特徴は日本語のリズムと、変化するスピードにある。そしていずれにしても、音楽との関連がどこかしらに感じられるのだ。これまでの詩人とは、明らかに何かが違っている。

1970年代の初頭にはっぴいえんどのアルバムで、初めて松本隆の歌詞を体験したときの印象に近いものがある。もしくはその2~3年後に松任谷(荒井)由実のアルバム『ひこうき雲』や『MISSLIM(ミスリム)』を聴いた頃の感覚にも、どこか共通する日本語の新鮮さを感じた。

言葉というものは最果タヒにとって、「自分のものではなく、みんなのもの」だったという。だから自分自身の気持ちを伝えるために言葉を書いたり話したりするより、自分の言葉を読んで相手がなにかを思ったり考えたりする、というのが言葉を書くことの醍醐味だと思っていたらしい。

詩人となって作品を発表してくるうちに、そのことが明確になってきて、いつしか「レンズのような作品」が理想だと自覚するようになった。

今年のはじめ、最果タヒは自身のブログにこんな言葉を記していた。

実現する可能性は著しく低いというのは当然ではあるけれど、でも、生きてくると「奇跡」や「夢」は徐々に、非現実的なものではなくなっていくんだなあ。
人生とは、もしかしたら進めば進むほど、まぶしくて、うつくしいものなのかもしれません。
http://tahi.hatenablog.com/

この詩人の動きを見ていると、久しぶりにわくわくしてくる。21世紀の日本に新しい日本語の歌が生まれてくる、ぼくは今そんな予感のなかにいるのだ。

そう、「奇跡」や「夢」が現実になる日は、それほど遠くないのかもしれない。

最果タヒの書籍はこちら

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『歌えば何かが変わる:歌謡の昭和史』(篠木雅博との共著・徳間書店)。

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