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1988年のエレファントカシマシ。「座りっぱなし」「セットなし」「照明一色」の伝説の渋谷公会堂ライブ、映像化に寄せて。

1988年のエレファントカシマシ。「座りっぱなし」「セットなし」「照明一色」の伝説の渋谷公会堂ライブ、映像化に寄せて。

今年2017年にデビュー30周年イヤーを迎え(※正確には来年=2018年がそうなのだが、その3月までを30周年イヤーということにしている様子です)、3月に「30周年・30曲・3000円」のベスト・アルバムをリリース。そして3月20日大阪城ホールを皮切りに、12月までかけて、毎週末を使って全国47都道府県を回るホール・ツアーの真っ最中のエレファントカシマシ。
その30周年企画の一環として、『LIVE FILM エレファントカシマシ 1988.09.10 渋谷公会堂』という映像作品が、7月26日に発売になった。その直前の7月11日には、Zepp TokyoとZepp Nambaでプレミア上映も行われた。

「LIVE FILM エレファントカシマシ 1988.09.10 渋谷公会堂」より

これは、エレファントカシマシがデビューした1988年に東京・大阪・名古屋・福岡で行われたホール・ツアーの東京公演、9月10日渋谷公会堂の模様を収めたもの。当時彼らが所属していたエピック・ソニーは、テレビ東京で『eZ』という番組を持っており、自社のアーティストの撮り下ろし映像を作って、オンエアしたりしていた。このエレファントカシマシのホール・ライブも、その番組でのオンエアありきで撮影されたものだと思う。
で、そのライブ、全14曲のうち、『eZ』で放送されたのは「ファイティングマン」と「ふわふわ」の2曲のみ。2011年リリースの『エレファントカシマシEPIC映像作品集 1988-1994』に収録されたのも、その2曲だけだった。それ以外の12曲は、(この場にいた人を除いて)本作のリリースで初めて目にすることができた、というわけだ。
この作品がリリースされた理由、3つあると僕は思っているのだが、ひとつめがそれ。このライブにおける「ファイティングマン」と「ふわふわ」以外の12曲を観ることができる、ということ。

「LIVE FILM エレファントカシマシ 1988.09.10 渋谷公会堂」より

ではふたつめは何か。いつも不機嫌で、世界のすべてに対してイライラしていて、客が立ち上がると怒り、声援が飛ぶと「何話しかけてんだ、お友達じゃねえんだ」とキレる、明るく楽しく前向きなバンド・ブームまっただなかに突如現れた異分子。それがエレファントカシマシだと、当時我々は認識していたが、それには演出もあった、という事実が、この作品を観るとわかる、ということだ。
不機嫌で怒っていてバンド・ブームの異端児だった、というのはまず素のキャラクターとして、事実としてあったのだが、それに輪をかけるような演出がなされてもいた。
照明は白一色で点きっぱなし。客電も点きっぱなしで、ライブが始まっても明るいまま。セットどころか黒幕すらなくて後方のコンクリの壁がむき出し。というこのステージが、エレファントカシマシのイメージを決定づけたのだが、これは当時エピックの映像制作ディレクターであり、日本のミュージックビデオの礎を作った故・坂西伊作の発案であり、必ずしも本人たちの意志ではなかったことを、宮本の言動が証明している。
「ファイティングマン」と「ふわふわ」の2曲でも、客席の照明が点いていることのやりにくさをぼやいたり、「だいたい、ばかばかしいぜこんなの。俺なんか、来たのが……まあいいや、やめた、めんどくさい」と、愚痴ったりしていたが、このたび初めて公開されたシーンでは「やっぱ失敗じゃないか」「こんなこと俺が考えたわけじゃないよ」などと口にしている。「こうやって慣れてくんだろうなあ、俺も。心配だよ」と、こぼしたりもしている。

「LIVE FILM エレファントカシマシ 1988.09.10 渋谷公会堂」より

ただし。それでも、いや、おそらくそれだからこそ、歴史的な作品になった、というのも事実だと思う。
確かにバンドの意に沿わない極端な演出がなされているのだろうが、じゃあ普通のコンサートとして行われていたらどうか。「デビュー直後、あまりにも早い段階で行ったホール・コンサート」という以外には大きな付加価値はなかっただろうし、だとしたらこうして30年後に映像化されることもなかったかもしれないし、何よりも、ステージ上で吐き出される歌と演奏が、こんなにとんでもないテンションのものにはならなかっただろう。

「LIVE FILM エレファントカシマシ 1988.09.10 渋谷公会堂」より

で。この作品が発表された3つ目の理由。坂西伊作の作品を、後世に残すため。要は、残す価値があるのに、残っているものは数少ないので、それをなんとかする、という話だ。
ミュージックビデオ黎明期だった当時の日本において、「王道を作る」よりも「誰も撮ってない方法で作品を作る」というやりかたで、その先頭を走っていた映像作家、それが坂西伊作だった。さまざまなバンドのミュージックビデオなども手がけているが、特に前述の『eZ』では、エレファントカシマシの4人が延々と信号待ちしている様子が映っているだけ、というような実験的な作品も、次々と作っていた。
そんな坂西伊作が遺した渋谷公会堂の映像を、彼からエレファントカシマシなどの映像の仕事を引き継いだ、弟子……と言っていいのかな、「弟子筋」くらいかな、とにかく多数のバンド映像仕事を手がける大沢昌史が、新たに編集して完成させたのが、この作品、というわけだ。
映画用のフィルムを使用。通常のライブ撮影ではありえない位置にカメラが設置され、ありえないアングルで撮影され、それらがありえない編集でつながれていく──という坂西伊作の作風が、存分に活かされている。

「LIVE FILM エレファントカシマシ 1988.09.10 渋谷公会堂」より

昨年11月、『1994.11.11.Chara「Happy Toy Tour in 武道館』という映画の上映会が行われた。これは、Charaがデビューから3年にして初めて行った日本武道館のワンマンを映画化すべく、坂西伊作が撮影クルーを入れていたのだが、本番の2日前に妊娠していることがわかり、初めての大会場ライブで不安だったこともあって、本番中に涙を抑えられなくなったり、観客に対して悪態をついたり、最後にはなんとか立ち直って、アンコールを終えたところで迎えに出てきた(当時の)夫の浅野忠信とステージを去ったり──。
と、とにかくもうえらいことになったためか、映像はお蔵入りになっていたが、が、昨年Charaのデビュー25周年の活動のひとつとして上映会が行われ、初めて人の目に触れることになった。
それからもうひとつ、矢野顕子が1992年に発表したカバー・アルバム『SUPER FOLK SONG』。これは、矢野顕子が歌とピアノの弾き語りを行ってそれを一発録りした作品なのだが、音源と同時に映像収録も坂西伊作が行い、同名のドキュメンタリー・フィルムとして同じ年に公開された。それがデジタル・リマスターされて2017年1月から劇場公開、6月にはブルーレイ・DVDで発売にもなった。昨年2016年が矢野顕子のデビュー40周年にあたり、オールタイム・ベスト盤のリリースなどの活動があったので、こちらもその一環と捉えていいと思う。

エレファントカシマシ、Chara、矢野顕子、いずれも周年にひっかけた形でのリリースや公開だったが、この機会に彼の作品を発表しておくべき、後世に伝えておきたい、という判断があったのだと思う。周囲のスタッフにも、アーティストにも。

文 / 兵庫慎司

詳細はこちら…http://www.110107.com/s/oto/page/ek_live88

■エレファントカシマシ デビュー30周年記念サイト(ユニバーサルミュージックジャパン)
http://sp.universal-music.co.jp/elephantkashimashi/30th/
■エレファントカシマシ オフィシャルサイト
http://www.elephantkashimashi.com/


坂西伊作作品
矢野顕子
SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~(2017デジタル・リマスター版)