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「こんな仕事に就いちゃいけない」!? 平井堅『歌バカ2』の新曲集『歌バカだけに。』スポットインタビュー

「こんな仕事に就いちゃいけない」!? 平井堅『歌バカ2』の新曲集『歌バカだけに。』スポットインタビュー

7月12日に発売されて以来、大ヒット中の平井堅の『Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2』。
12年前=2005年にデビュー10周年記念でリリースされ、200万枚を超えるメガセールスを記録したシングルコレクションベスト『歌バカ』の続編的な位置付けであり、『歌バカ』リリース以降のシングル全23曲を収めたバージョン、その23曲にBlu-ray Discが付いたバージョン、『歌バカ』に入っているデビュー曲「Precious Junk」(1995年)から「POP STAR」(2005年)までの23曲も改めて収録された全46曲のバージョン、という3形態でリリースされている。
そしてその3形態のすべてに、10人のアーティストが、歌詞と曲、人によってはアレンジも提供した、言わば「自分で詞曲を書くの禁止のニューアルバム」である『歌バカだけに。』が入っている。
tofubeats、草野マサムネ、TOKO(古内東子)、横山剣、槇原敬之、石野卓球、BONNIE PINK、LOVE PSYCHEDELICO、中田ヤスタカ、KANという錚々たる曲提供陣を見ても、実際に作品を聴いても、これ、単独作品としてリリースすべき作品なのでは? という、充実しまくった内容になっている。
その『歌バカだけに。』のことを中心に、話を訊いた。

取材・文 / 兵庫慎司


「ああ、自分の色、出せないじゃん!」みたいな快感はありましたね

デビュー曲から今年6月に出た最新シングル「ノンフィクション」までで、ご自身の“歌バカ度”の変化具合を、どのように見られていますか? 歌う意識の変化を、どのあたりに感じていますか?

歌う意識の変化、いつかなあ……でも、大きかったのは、やっぱり「楽園」って曲ですね(2000年1月リリースの8thシングル。初めて外部に詞曲を依頼、「これでダメならレーベルとの契約終了」という背水の陣で制作・リリースされたこの曲は、60万枚オーバーの大ヒットを記録した)。あの曲で、抜くことを学んだと思うし。それまでの5年間は、声を張り上げていたので。歌うアプローチとして、張り上げるっていうよりは、染みわたらせるっていうふうに、志を変えた感じはあると思いますけど……。

『Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2』初回生産限定盤A_ジャケット写真

『歌バカだけに。』で、様々なミュージシャンに調理された中で、歌い手としての自分の新しい発見はありました? もしくは「こんな調理のされ方は!」って驚いた、印象に残った曲はありましたか?

もう全部が発見だらけだったけど……でもやっぱり、普段の自分といちばんかけ離れた、石野卓球さんの曲とか、中田ヤスタカさんの曲は……特に卓球さんの曲は、歌唱においての平井堅らしさみたいなものを放棄して臨んだので、そういうのはすごく気持ちよかったですね。
「ああ、自分の色、出せないじゃん!」みたいな(笑)。そういう快感はありました。僕、そういう奴隷願望みたいなのがちょっとあるので。中田ヤスタカさんも……当然ファンだし……無機質に歌うこととか、女性ボーカルが合う曲を作る方だと思っていたから。「どうしよう、どう歌おうかなあ」と悩んで、いわゆる棒歌いというか、あんまり抑揚をつけずに歌ったりしてみたんだけど。でもヤスタカさんから「そんなに意識しないで、いつもの平井さんぽく歌ってください」って言われて。
最終的に、わりと平井堅ぽく歌いました。

僕の武器は、自信がないから努力できるところ

音楽制作に自信と執着はないとおっしゃる平井さんですが、自身のソングライティングにおいて、自分にしか書けないもの、武器とはなんだと思いますか。

いやあ、だから、それがないって、いつも言ってるんですよ……。

でもそうおっしゃるわりに、自身で詞曲を書いてヒットした曲、多いじゃないですか。

だからそれがあのー、そうですねえ……でも……なんだろう……いやあ、難しい…………いや、ないなあ。ないですよ、武器なんて。
でも、うーん……ま、唯一答えるなら、ずるい言い方だけど、自信がないところかなあ。自信がないから、ほかの人の曲を聴くと落ち込むし……『歌バカだけに。』で曲を書いてくださった、10人の方はみんなそうなんですけど。自分に書けない曲を書く人たち。そう考えるとやっぱり僕の武器は、自信がないから努力できるところかな。曲を書いて「すげえ俺」って絶対思えないから。たとえば「ノンフィクション」って曲を書いたときも、「すげえ俺」って思えなかったし。ただ「曲が出来た」って言って、まず友達に聴かせるんですけど。で、「いい曲だね」って言われると、「あ、いい曲なんだ? じゃあマネージャーに聴かせられるかも」ってなるんですけど。
だけどよく「もっとこうできる」って言われるんです。で、「あ、そうなんだ? じゃあこうしてみよう」って考えて、作り直してみる。っていう努力をできるってことかな、武器があるとしたら。

その友達って、スタッフとかじゃなくて普通の人ですか?

そうです。僕、友達の意見っていうのがすごい大事で。スタッフとか、内部にいるとわからないことを、すごい無責任に言うから。お客さんの視点で言ってくれるんですね。その友達、すっごい言うことが的確で。「あのときに言われたの、そのとおりだった!」って、あとになるとわかるんですね、いつも。

プロデューサーですね。

完全にプロデューサーです。僕のブレーンなんですよ。天才だと思ってるんですけど。音楽業界じゃないし、ミュージシャンじゃないんですけど、感覚がすごい。売れる売れないがパッてわかっちゃう感じの人なんですね。

『Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2』初回生産限定盤B_ジャケット写真

曲を依頼したとき、みなさんどんなリアクションを返してくれました?

たとえば(草野)マサムネさんは、いつも「平井くんが歌えない曲を書きたい」って言ってくださっていて、そういうのを狙ったっておっしゃってたし。KANさんは「平井くんがいかにも書きそうな曲を、僕があえて書く」っていうので書いてくれたり。あと、BONNIE(PINK)とTOKOは、電話で話して「書いてくんない?」って……で、世間話をしてるときに、僕の毒っ気みたいなものをひっぱり出したいんだろうなあっていう感じで、その電話での話から言葉をパッパッてピックアップして、書いてくれた感じでしたね。
ちょっと湿った感じというか。

「こんな仕事に就いちゃいけない人間だ」っていう、罪の意識が本当にある

「制作に自信と執着はない」っていう話でちょっと思ったんですけど、平井さん、毎回必ずアレンジャー、プロデューサーを立てますよね。

だって、自分ではできないですもん、そんな。楽器もなんにも弾けないのに。

でも、これだけ長年いろんなプロデューサーと組んで仕事をしてきて、「そうか、こういうふうにやるのか。自分でもやろうかな」という気持ちには、まったくならないですか?

いや、だからね、僕、「こんな仕事に就いちゃいけない人間だ」っていう、罪の意識が本当にあって。歌うのはすごい好きだし、なんでも一所懸命取り組もうとは思ってるんだけど……ミュージシャンじゃないんですよね、ほんとに。
なんだろうなあ……こういうふうにメインストリームで頑張って、そこのけそこのけって前に躍り出たい、みたいな感じでやってるのが……自分の才能とか、センスとかを誇示したいっていうよりは……なんかほんとに、負けん気だけで成り立ってる気がして、すごいイヤなんですけど。汚らしいと思って。
「くそ、いつか見返してやる!」って気持ちだけでやってる感じが、すごくしますねえ。純粋じゃないっていうか。
まあ、売れてる人はそれ、絶対あると思うけど。でも、それでもちょっと、最近ピュアネスに近づいたみたいなのが……あんのかなあ? こじらせすぎて、よくわからなくなっていますけど。
でも、あの……曲を書いてるときのことを思い出せない、っていうのはあって。これ、畏れ多いけど、back numberの(清水)依与吏くんがおっしゃってたんだけど、自分が曲を書いたときのことが思い出せない、毎回初めてっていう感じで、できるかどうかドキドキして書く、って。
「あ、おんなじだ!」と思って。僕も書いてるときのことをまったく思い出せないんですね。
だから、そのときだけは純粋なのかもしれないですね。無我夢中っていうか。なんだけど、そのあとプロモートして売るっていう作業に、すごく一所懸命になっちゃうから、忘れちゃうんですよね、音楽を作る喜びみたいなのを……なんの質問だったっけ?(笑)。

アレンジやプロデュースを自分でやってみようと思わないのはなぜなんでしょうね、っていう話です。「今回はこういうものにしたいからこの人」って選ぶっていうことは、方向性のジャッジは自分でできているわけじゃないですか。

だって好みはあるから、うん……あ、そうかそうか。だから…………なるほど。うん、そうですね。アレンジしたいです(笑)。はははは!

なんですか、その急な同意は(笑)。

いやいや……そうだ、できないんだけど、僕、作詞作曲よりもしたいですね、アレンジは。っていうのは、アレンジは、もっとセンスって感じがするから、音楽っていうより。曲が纏うものだから……そうですね。したい。したいっていうか、その片腕になってくれるような人が欲しいなあと思いますね。かっこいいアレンジは、できるようになる気がする。ダサいことはしない気はするなあ(笑)。

平井 堅(ひらい・けん)

三重県名張市出身。1995年デビュー。2016年6月発表の最新シングル「魔法って言っていいかな?」を含め40枚、最新アルバム『THE STILL LIFE』含めオリジナルアルバム9枚をリリース。歌謡曲はもちろんのこと、R&B、POP、ROCK、HIPHOP、HOUSEなど多種多様なジャンルに傾倒し、数多くのヒット作品を輩出。累計3,000万枚のセールスを記録する。日本人男性ソロアーティストとしては初めての〈MTV UNPLUGGED〉の出演や、スティーヴィー・ワンダー、ジョン・レジェンド、ロバータフラッグ、美空ひばり、坂本九、草野マサムネ、安室奈美恵など時代/ジャンル/国境を越えたコラボレーションを実現。これまでに4枚のアルバムでミリオンセラーを記録し、男性ソロでは歴代No.1の記録となるなど、記憶と記録に残る活動を続ける。2015年5月13日にデビュー20周年を迎えた。
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